教授挨拶

教授

腎臓内分泌代謝内科受診のみなさまへ

「不老長寿」、一日でも長く生きたいという思いは古今東西を問わず、人々の切実な願いでした。そしてその実現を目指して、医学は今日まで目覚ましく進歩してきました。戦争直後の昭和22年、日本の男性の「平均寿命」は50歳、女性は54歳でしたが、平成28年では、男性81歳、女性は87歳と飛躍的に伸び、我が国は世界トップクラスの長寿国となっています。しかし、寝たきりや認知症の問題が大変深刻になり、要介護のかたが、600万人を越えています。「健康寿命」とは、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のことで、現在、平均寿命と健康寿命の間には、男性で約9年、女性で約13年の差があります。皆さんは、あくまで「元気で長生きしたい」「他人の面倒にならずに長生きしたい」ことを望んでおられるのではないでしょうか。つまり、健康長寿こそが、わたしたちの願いです。我が国で、百歳を超えて生きておられる方(百寿者)は、6.5万人になり、その数はどんどん増えています。生き生き、はつらつとして笑顔で日々をおくっておられる百寿者の方がたくさんおられます。われわれ慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科はそうした健康長寿の実現のため日々診療活動を行っております。

日本人の死因の第一位はがんです。第二位は心臓病(狭心症や心筋梗塞)、第三位は長らく脳血管障害(脳卒中など)でしたが、現在は肺炎となっています。日本人三人のうち、一人は、がんで亡くなり、もう一人は血管の病気(心臓病あるいは脳血管障害)で亡くなります。肺炎は、新しい感染症が興ってきたわけでなく、寝たきりや認知症の方が増えて、感染しやすくなったからです。寝たきりになるのは、やはり血管の障害、動脈硬化症がその原因になります。血管障害は、また失明や腎臓透析など患者さんの生活の質を著しく落とす原因にもなります。

動脈硬化症は、いくつかの危険因子により引き起こされますが、その中で重要なものは、われわれの生活習慣の乱れによって起こってくる高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などです。こうした生活習慣はひとりの人に重なって起こってきます。最近では、この生活習慣病の重なりには、肥満が重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。現在大変注目されている“メタボリックシンドローム”という概念は、肥満、とくに内臓肥満(栄養を吸収する腸の周りや、肝臓などに脂肪がたまること)が原因となって生活習慣病が重なっている状態を示します。メタボリックシンドロームは動脈硬化症の原因となるので、大変注目されているのです。動脈硬化症は、症状がでないまま、長年かかってどんどん進んでいきます。また、こうした生活習慣病がおこってくると、早い段階で、腎臓が障害されて、そのことが原因となって、心臓や脳の機能を悪化させることも分かってきました。こうして起こってくる腎臓の障害は最近、“慢性腎臓病”とよばれるようになり、動脈硬化症の危険因子として注目されています。

また、がんも、肥満でおこりやすいこともわかってきました。女性のがんの第一である大腸がんや子宮がん、膵臓がん、肝がん、腎臓がんなどは、肥満の人がかかりやすいのです。

つまり、生活習慣の乱れによる肥満、それを原因とするメタボリックシンドローム(血圧上昇、血糖の上昇、脂質の異常)、さらに動脈硬化症の進行や、慢性腎臓病、糖尿病の発症、そして、脳血管障害や心臓病、あるいは、腎不全(腎透析)や失明などは患者さんの長い一生において、ひと続きの流れの中で起こってくるのです。その流れの中で、がんも起こりやすくなります。お互いのことが影響しあって、患者さんが気付かないうちにどんどん悪くなってしまい、ある所をこえると、もうもとに戻れない状態になってしまいます。わたしはこうした、一連の流れを“メタボリックドミノ”という言葉で示しています(図)。われわれ腎臓内分泌代謝内科では、この“メタボリックドミノ”全般の医療をめざしています。

そのため腎臓内分泌代謝内科では、1.患者さんの生活習慣の全般を理解する、2.患者さんの体に起こっていることすべてを把握する、3.生涯にわたって患者さんと付き合う、ことに努めております。つまり、患者さんのトータルケアー、ライフロング(生涯にわたるという意味)ケアーを目指しています。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、そして動脈硬化症、腎臓障害、さらにはがんなどのすべてを理解しようと努力し、細心の注意をはらって患者さんの全身を診ていく、そして、症状のあるときもないときも、ずっと患者さんのそばにいて、その様子を見守っていく医師を目指しております。

メタボリックドミノは、倒れているドミノ(駒)の数ができるだけ少ないうちに、つまり、できるだけ早く治療すると、より倒れるドミノを少なくすることができます。また最近の研究では、早めに適切な治療を行うと、病気の進行を遅らせたり止めたりすることができるだけでなく、いったん起こった病気が治る(倒れたドミノがもとに戻る)こともあることが分かってきました。ですから、われわれ腎臓内分泌代謝内科では病気の予防や進展制御だけでなく、退行(病気がよくなる)も目指して診療しております。

ホルモンは、わたしたちの体で作られて分泌されて血液によって運ばれ、必要な場所で働き、体の調子を常に一定に保つ物質です。このホルモンを扱った医療分野が内分泌代謝の領域です。ホルモンは、年齢とともに分泌量がどんどん変化していくことが知られています。インスリンは膵臓から分泌されて血糖を下げるホルモンですが、インスリンの分泌が低下することで糖尿病が起こります。女性ホルモンが欠乏すると、更年期障害、骨粗鬆症、動脈硬化症がおこりますし、男性ホルモンの欠乏による男性更年期も最近注目されています。脂肪をため込むだけの働きと思われていた脂肪細胞からホルモンが分泌され、糖や脂肪の代謝、あるいは食べる行動や肥満度を調節していることが分かってきました。メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積の結果、この脂肪細胞から分泌されるホルモンの異常が起こって、高血圧や糖尿病などが起こってくることが明らかになってきました。

全国的に内分泌の専門の医師は不足しています。腎臓内分泌代謝内科には、糖尿病、高血圧の専門医に加えて、内分泌の専門医がたくさんおります。生活習慣病や、メタボリックシンドロームなど、患者さんの数が大変多い病気はもちろんのこと、特殊な内分泌の病気(脳の視床下部や下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、性腺など)も正しく診療することができます。

現在、生活習慣病である糖尿病や高血圧が原因で腎透析に至る方が増えています。ですから、生活習慣病を早期に正しく治療することが透析に至らないようにするために極めて重要です。しかし、腎臓病には、こうした生活習慣病によるもの以外に、腎臓そのものの病気(いわゆる腎炎といわれる病気)もあります。こうした病気は、腎生検といわれる腎臓の一部を採取して顕微鏡で調べる検査を含めた複数の検査によって正しく診断し、その結果に基づいて治療方針を立てる必要があります。腎臓内分泌代謝内科には、多くの腎臓専門医がおりますので、こうした腎炎についても正しく対応し診察することができます。

このように、われわれ腎臓内分泌代謝内科は、みなさんがメタボリックドミノのどの段階におられても対応できる体制をとっております。みなさんの健康長寿の助けになるように、トータル、ライフロングケアーを行う医師としてみなさんをお待ちしております。