近年、解析技術の進展により、遺伝子の異常が原因となる病気(遺伝性疾患)についての理解が急速に進んでいます。腎臓においても、病気の原因となる新たな遺伝子が明らかになったり、遺伝性疾患に対する新しい治療の選択肢が提案されたりしています。当科では、2021年度から専門外来を開設し、臨床遺伝学センターや他の診療科と連携して、遺伝性腎疾患の専門的な診療を行っています。

遺伝性疾患とは?

日本語の「遺伝」は、親から子に遺伝子の性質が受け継がれるhereditaryと、遺伝子そのものを指し示すgeneticの両方の意味合いを含んでいます。遺伝性疾患は、「遺伝子の病気」であり、親の遺伝子の変化を受け継いで発症する場合もあれば、親の遺伝子とは無関係に遺伝子の突然変異が原因となって発症する場合もあります。したがって、家系内に腎疾患の方を確認できないからといって、遺伝性腎疾患を否定することはできません。家族内に腎疾患の集積が見られる場合だけでなく、原因不明の腎機能障害がある場合にも、遺伝性腎疾患外来にご相談ください。

遺伝性腎疾患

遺伝性腎疾患には、腎臓の障害が主となる病気と、全身性の病気(様々な臓器の1つとして腎臓にも障害を起こす病気)とがあります。前者には多発性嚢胞腎やAlport症候群、後者にはミトコンドリア病、ファブリー病、遺伝性アミロイドーシス、結節性硬化症などが知られており、当科で診療を行っています。当院には、臨床遺伝学センターをはじめ多くの診療科に遺伝性疾患を専門とする医師がおり国際水準の医療を提供しています。全身性の遺伝性疾患の場合、他の診療科と連携をとって、全身的かつ専門的な診療を受けることが可能です。

遺伝子検査の意義

遺伝子検査は、病気の原因を明らかにするとともに、今後の臨床的な経過を予測し、診断に基づいて適切な治療を提供することを目的に行います。近年、医療の進歩により、ファブリー病に対する酵素補充療法(遺伝子の異常によって不足が生じている酵素を、注射で補充する治療)や、一部の遺伝性アミロイドーシスに対する核酸医薬(異常な蛋白質を作る遺伝子を抑制する治療薬)など、遺伝性疾患に対して、進行を抑制する薬剤が使えるようになってきました。一方で、遺伝情報には、一生涯変わらないという「不変性」、将来の疾患発症を予測しうる「予測性」、血縁者が一定の割合で同じ情報を持つ「共有性」という特徴があり、遺伝子検査を実施するにあたっては、専門的な知識を有する医師から十分な説明を受け、メリット・デメリットを理解することが必要です。