慶應から世界へ 世界から慶應へ

慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科 専任講師 川野 義長

私は、慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科で糖尿病専門医と博士号を取得した後に、2018年から2022年の4年間、米国ニューヨークのコロンビア大学メディカルセンター、微生物免疫学教室Ivaylo Ivanov博士のもとに海外留学してきました。現在は慶應大学の出身医局に戻りスタッフとして働いています。

臨床の専門は糖尿病で、研究テーマは免疫から肥満糖尿病の制御を目指す「Immunometabolism」という分野です。慶應大学病院で初めて受け持った症例が、高度肥満症で胃内バルーン留置術の周術期の患者であった所から、腸管免疫と肥満糖尿病の関係に関心を持ちました。大学院時代には、良い恩師に巡り合い、肥満糖尿病発症の早期に腸管に炎症性の変化が起きる事に気付きました(Kawano Y et al. Cell Metabolism. 2016)腸管免疫の世界をもっと極めたいと考え、その分野で先駆的研究をしていたコロンビア大学医学部微生物免疫学教室Ivaylo Ivanov博士に連絡を取り、面接を得て留学が決まりました。留学先ではSFB(Segmented Filamentous Bacteria)という常在性の腸内細菌とそれによって誘導される腸管の特殊な免疫細胞Th17の肥満糖尿病における役割に関して研究をして、論文にまとめました(Kawano Y et al. Cell. 2022)

海外留学の魅力を一言でいうと、「言葉のバリアがある中で、もがき苦しみ何とか道を切り拓いていく点」にあります。プロジェクトへの情熱を伝え、データがしっかりしていれば、英語が多少稚拙であっても、相手は必ず耳を傾けてくれます。海外留学して、本物のサイエンティスト達が集う空間に身を置く中で、「慶應腎内代での仕事が、世界に通じる」ということに確信を持つ事ができました。慶應で書いた論文が名刺代わりになり、世界の研究者が皆さんを受け入れてくれます。慶應に入局してくれた皆様が、世界に羽ばたき、そこで得た力を、また慶應にもどって存分に力をふるってくれるその日まで、皆様を全力でサポートしていきます。腎臓内分泌代謝内科への入局を心よりお待ちしております。

落ちこぼれ留学記 

慶應義塾大学医学部 医学教育統轄センター 山口 慎太郎

私は、2014年から約3年間米国ワシントン大学医学部内科に研究留学をさせていただきました。私の場合は、他の先生方のように華やかな研究成果があったわけではなく、恩師伊藤裕名誉教授とメンターである吉野純先生の寛大なご配慮があってこそ実現いたしました。

大学院時代には、伊藤裕名誉教授から「演歌を歌う時は堂々としているのに、研究となるとどうもな~」と厳しいお言葉をいただきましたが、「一生懸命頑張っていることは認める、留学で存分にチャレンジしてきなさい。」と言っていただき、“大丈夫”という自筆の書を頂戴しました。

アメリカに到着して、最初の2週間はホテル暮らしをしたのですが、生活するためにはアパート契約、銀行口座開設などやらないといけないことが盛りだくさんです。英語のレッスンを十分に受けてきたと自信をもっていたのですが、実際には何を言っているのかさっぱりわからず、自分の英語も理解してもらえず、途方に暮れたことを鮮明に覚えています。英語恐怖症とホームシックになりましたが、同時期に留学していた3学年先輩の金蔵孝介先生(現 東京医科大学 薬理学分野 主任教授)にバードウォッチングに連れて行っていただいたり、同期の伴紀充先生、1学年後輩の八木拓也先生と家族でアップルピッキングに出かけたり、研究室の仲間とスポーツ観戦をする中で、いつの間にかアメリカ生活を満喫しておりました。また、ワシントン大学医学部には今井眞一郎教授、浦野文彦教授、吉野美保子先生といった慶應医学部の錚々たる先輩がいらっしゃり、親身に研究をはじめ様々な面でご助言をくださいました。そして、ヒト肥満研究の世界的大家Samuel Klein教授(Department chair)が自分の発表を聞いてくださり、研究アドバイスをくださったときの感激は忘れることができません。研究に集中し、質の高い論文を発表することに全エネルギーを注げる環境に身を置くことで、研究者としての歩みを進めることができたと思います。

米国での研究生活で驚いたことは、論理を重視することです。同僚の理路整然とした説明や発表に度々圧倒されました。研究室の主宰者である吉野純先生は、感覚的に物事を考える癖が身についていた私に、仮説を立て、仮説検証のために実験を行い、データを論理的に解釈することを日々指導してくださいました。論理や理屈を重視する一方で、認めた人には惜しみない情を注ぐことがアメリカ人の魅力だとも感じました。Samuel Klein教授の秘書さんが、当時子供がおらず、これといった予定がなかった私たち夫婦を度々家族団欒の場に誘ってくださり、家族、仲間を大切にするアメリカの文化にすっかり魅せられました。アメリカでの研究留学は論理的な思考と情の大切さを私に強烈に印象づけ、患者さんや学生・研修医と向き合う日々の中で、今まさにその重要性を痛感しています。

腎臓内分泌代謝内科では、スターじゃなくても頑張っていればチャンスがもらえます。安心して入局し、様々なことにチャレンジをして、臆することなく留学をしてください。“大丈夫”です。林香教授を先頭に、皆さんの入局をお待ちしております。