糖尿病とは

糖尿病は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が不足したり、効き目が悪くなる(インスリン抵抗性)ことで体内での血糖調節がうまくいかなくなり、高血糖をきたす疾患です。血糖値が高い状態が続くことにより、全身の動脈硬化や合併症が進むことがわかっています。統計データによると、日本では約1000万人程度の糖尿病患者さんがいるとされており、さらに糖尿病の可能性を否定できない“予備軍”も含めるとその数は約2000万人にのぼると推計されています。

糖尿病の種類

糖尿病には、以下のようないくつかの種類があります。

1型糖尿病

このタイプの糖尿病は、自己免疫反応などによってインスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されることで起こります。多くの患者さんでは体内でのインスリン分泌が枯渇し、生涯にわたってインスリン注射による治療が必要となります。

2型糖尿病

最も一般的なタイプの糖尿病です。インスリンの分泌が低下する場合と、インスリンは分泌されているものの体内での効きが悪くなる場合があります。遺伝因子とともに、不健康な食生活や運動不足、肥満などの生活習慣との関連が強いとされます。

その他の糖尿病

遺伝子異常が原因である場合や、膵臓、肝臓の病気が原因となる場合(例:膵臓癌、肝硬変など)、血糖を上げる薬剤(例:副腎皮質ステロイド)が原因となる場合など、糖尿病を発症した原因がはっきりしているものがこのタイプの糖尿病に分類されます。

妊娠糖尿病

妊娠中に行う糖負荷試験で糖代謝異常が指摘された場合に診断されます。妊娠糖尿病と診断された方は、診断されなかった方と比べて将来糖尿病を発症する可能性が高いとされています。

症状

血糖が高いことによる症状には以下のようなものがあります。このような症状を自覚された場合は、すぐに近くの医療機関を受診する必要があります。

  • 口が渇く
  • 頻繁に水を飲む
  • 頻繁に尿が出る
  • 体重減少
  • 疲れやすい
  • 傷の治りが遅い

治療目標

糖尿病治療の目標は、血糖のみならず血圧、脂質、体重などの良好なコントロールを維持することにより、糖尿病の合併症が発症、進展することを防ぎ、糖尿病のない人と変わらない寿命と生活の質(QOL)を得ることです。

合併症

長期間高血糖が続くと全身の血管が傷つき、慢性合併症につながります。細い血管に障害が起きると、糖尿病の3大合併症である神経障害、網膜症、腎症を引き起こします(細小血管障害)。また、太い血管に障害が起きることで、脳卒中、狭心症・心筋梗塞、末梢動脈疾患などを引き起こします(大血管障害)。また、血糖が著しく高い場合、糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群といった生命に危険を及ぼす急性合併症を起こすことがあります。

治療

すべての患者さんにおいて、食事療法と運動療法が治療の基本となります。その上で、医師と相談しながらそれぞれの糖尿病のタイプに合わせた治療を選択します。
1型糖尿病の方では、インスリン療法が選択されます。1日に複数回インスリン自己注射を行う方法や、最近ではインスリンポンプと呼ばれる皮下から持続的にインスリンを注入する機械を用いることも普及してきています。
2型糖尿病の方では、食事療法と運動療法のみで効果が不十分な場合、経口薬や注射薬による治療が選択されます。現在、多くの経口薬が使用可能であり、大きく分けて9種類の薬剤の中から治療薬を選択します(2024年2月時点)。1種類の薬剤で効果が不十分な場合は複数の薬剤を使用することもあります。また、注射製剤としてGLP-1受容体作動薬、インスリンも使用可能です。患者さんひとりひとりの病態に合わせて、上記を組み合わせた治療が行われます。
妊娠糖尿病の方では、食事療法を行っても目標の血糖値に達しない場合、インスリン注射を行う場合があります。インスリンは胎盤を通過しないため、安心して治療を行うことが可能です。なお、日本では糖尿病の経口薬は妊娠中の方には使用できません。

慶應義塾大学病院での取り組み

当院では令和元年に糖尿病先制医療センターというクラスターセンターを開設しております。1型・インスリンポンプ外来、フットケア外来、肥満症外来、遺伝性糖尿病外来などの専門外来に加え、”合併症予防“、”治療サポート“、”人生サポート“の3本の柱で患者さんをあらゆる角度からサポートいたします。
また、新型コロナウイルス感染症の流行により外来糖尿病教室を休止していましたが、2023年7月より2カ月に1回程度の間隔で再開しています。糖尿病の基本から最新情報まで医師やコメディカルがテーマに沿って解説します。
1型糖尿病の方に対しては、積極的にインスリン持続皮下注射療法(CSII)や、持続血糖測定器(CGM)と連動するインスリンポンプ(SAP)を導入しています。また、血糖測定やインスリン治療を行っている患者さんのデータをクラウドで共有し管理するシステムも整備しており、最先端の医療を提供できるよう取り組んでおります。

KOMPASは、慶應義塾大学病院が作成しているオリジナルの医療・健康情報のHPです。糖尿病について詳しく知りたい方はぜひご覧ください。