肥満と肥満症とは

肥満とは、体の脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。その診断のためには、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で体格指数(Body mass index;BMI)を計算します。このBMIが25以上である状態が日本では肥満と診断されます。さらにこの肥満に起因ないし関連し、減量を要する健康障害を合併するものや、内臓脂肪型肥満が認められるものを肥満症と診断します。ここで「肥満症」と診断するための健康障害とは、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧症などの11項目が挙げられています。これらの健康障害を改善する、または進展を防止するために、肥満症を有する方は、減量に取り組む必要があります。
肥満症の診断と治療には、内分泌疾患や薬物の影響などを含めた原因の検索と、患者さんの生活リズムや食習慣、身体活動などの情報が重要になります。そこで当科では管理栄養士や看護師を含めた肥満症の診療チームをつくり、チーム医療で患者さんのケアを行なっております。

肥満症の治療

肥満症の治療は体脂肪蓄積を減らすこと、ならびに起因する健康障害の治療が目的になります。これらは同時に行なう必要がありますが、特に健康障害の主な原因である、体脂肪減量が重要です。そのために食事療法、運動療法、また適応がある場合には薬物療法や外科的治療を組み合わせます。

食事療法

体脂肪を減らす食事療法を考える上で、個人のエネルギーバランスをマイナスにする必要があります。しかし実際には、ひとりの個人が減量し続けるために最低必要なエネルギー摂取量の算定は、必ずしも簡単ではありません。同じ環境で3ヶ月の間、一卵性双生児のペアに生活して貰った臨床研究では、双生児のペアによって体重の増加幅は6kgから13kgと大きな違いが生じたと報告されています。したがって、体重管理に重要な摂取エネルギーの算定は個別に設定されるべきであると考えられます。実際の診療現場では、まず身長からBMIが22kg/m2となる標準体重を計算し、1日の摂取エネルギーは標準体重1kgあたり25kcalを目安に設定します。その後、体重の変化と患者さんの食嗜好、生活スタイルに応じて調整を行っていきます。仕事中の間食の有無、エネルギーを含んだ飲料水の摂取、早食いであるかなどの情報もうかがい、患者さんと共有します。そのうえで、一定の時間帯は間食を一切中止する、コーヒーや紅茶などを飲むときはストレートで飲む、といった具体的で、分かりやすい対応を患者さんとともに考えていきます。また当院では、様々なデジタルデバイスを用いて、生活スタイルを可視化する試みも行なっており、その日常生活の行動データから、生活リズムの調整が可能になることがあります。

日常生活での身体活動

日常生活の中で、運動療法としてスポーツやトレーニングなどを積極的に導入することは重要です。しかし、社会的活動が盛んな方や、膝関節などの痛みを持つ方には、いわゆるスポーツの時間をとることは困難なこともあります。その場合も、座位時間が長いことが代謝異常症を悪化させることが報告されていることから、こまめに動くことや、立って作業を行なうことなどが大切です。また“運動”療法と構えず、日常生活の中で実施可能な変化を探すようにする必要もあります。たとえば、駅では階段を使用して歩く、会社でエレベーターを使用せず階段を可能な限り使用する、昼休みに外出する、会社への行き帰りに一駅前に降りて歩く、などのエネルギー消費を増加する工夫も考えられます。さらに減量には有酸素運動が推奨されますが、週2-3回のレジスタンス運動も内臓脂肪を減らし、その効果が有酸素運動に匹敵するとも報告されています。様々な方法で身体を動かすことが重要でしょう。

薬物療法

肥満症の治療において、食事・運動療法をサポートするものとして薬物治療が行なわれることがあります。減量効果が示されている薬物の一つとして、腸からの脂肪吸収を抑制するリパーゼ阻害薬が知られています。海外では長く使われてきた薬剤で、日本でも2024年以降、使用可能になる予定です。
また腸管から分泌されるホルモンを応用した薬物も、肥満症の治療薬として注目を集めています。Glucagon-like peptide 1(GLP-1;ジーエルピーワン)は、腸に存在する内分泌細胞から、腸の中の糖質や脂肪酸などの栄養素が刺激となり分泌されるホルモンです。このGLP-1は血糖値が高いときに膵臓からのインスリン分泌を促進し血糖値を低下させることから、GLP-1の作用を応用した糖尿病の治療薬が拡大しています。さらにこのGLP-1に似せた薬剤により肥満症も改善することが明らかになり、新たな肥満症治療薬として注目を集めています。

外科的治療

肥満症の治療法の一つとして、胃の一部を切除する手術に代表されるような外科的手術が行なわれることがあります。近年これは「減量代謝改善手術」と呼ばれています。日本では手術を受ける肥満症患者さんは多くありませんが、欧米諸国においては年間数十万人が本術を受けていると報告されています。本術を受けた患者さんが、減量のみならず糖尿病や高血圧症などの管理も改善することから、糖尿病などの治療に注目して、減量“代謝改善”手術、と現在呼ばれるようになっています。