概要

腎臓は、血液の中の老廃物を除去し、尿を生成する臓器です。尿を生成する最初のステップは、血液を濾過することですが、その濾過装置の1個1個を糸球体と呼びます。人体には腎臓が2つあり、1つの腎臓にこの糸球体が約100万個、2つの腎臓で計200万個の糸球体があるといわれています。この糸球体に炎症が起こるのが糸球体腎炎です。糸球体腎炎にはさまざまな種類がありますが、一部の例外を除いて、その確定診断は通常、腎生検による組織診断で行われます。

IgA腎症

IgA腎症は、糸球体腎炎の中でも最も一般的なタイプの一つであり、日本における透析導入の主要な原因の一つです。その詳細なメカニズムは未だ解明されていませんが、扁桃腺などから異常なIgA(糖鎖異常IgA)が産生され、これが腎臓の糸球体に蓄積し、炎症を引き起こすことが考えられています。初期段階では明確な症状が現れにくく、健診での検尿異常が診断の契機となるケースが多いですが、一部には風邪(上気道感染)や胃腸炎の数日後に血尿を発症し発見される方もいます。治療法は、症状の重症度や腎機能の低下の程度によって異なります。軽度の症例では、定期的な経過観察も考慮されますが、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬と呼ばれる降圧剤による血圧管理に加え、異常IgAの産生を抑えるための扁桃摘出術やステロイドなどが使用されることもあります。

ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は、腎臓から大量のタンパク尿が漏れ、著しいむくみが生じる腎臓疾患です。この疾患には、微小変化型ネフローゼ症候群や膜性腎症などの一次性ネフローゼ症候群だけでなく、悪性腫瘍や膠原病、糖尿病などの全身性疾患、または特定の薬物の副作用によって引き起こされる二次性ネフローゼ症候群があります。症状の進行速度は、タイプによって異なります。例えば、微小変化型ネフローゼ症候群では急性発症することが多い一方で、膜性腎症は緩徐に進行する傾向があります。ネフローゼ症候群は、腎機能の悪化だけでなく、尿中に重要なタンパク質が失われるため、血栓症や感染症などといった合併症のリスクが高いことが特徴です。治療法は原因によって異なりますが、一般的にはACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬などの降圧剤、またステロイドや他の免疫抑制剤が使用されることがあります。

急速進行性糸球体腎炎

糸球体腎炎の中でも、重篤な経過をたどる急速進行性糸球体腎炎は、腎臓の機能が数週間から数ヶ月間で低下します。多くの場合、だるさ、むくみ、微熱、呼吸の苦しさなどの症状がみられますが、ほとんど症状がない場合もあります。原因は多岐にわたりますが、代表的な原因として、自己抗体であるANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody)が関与している血管の炎症が知られています。ANCA関連血管炎では、腎臓以外にも炎症が生じる場合があり、肺や皮膚などにも合併症が引き起こされることがあります。将来的に透析が必要となる可能性が高い疾患ではありますが、ステロイド、免疫抑制剤、血漿交換などによる様々な治療を組み合わせることで効果を発揮する場合も少なくなく、早期診断と早期治療介入が重要になってきます。

急性糸球体腎炎

急性糸球体腎炎は、短期間で発症し急速に進行する腎臓の疾患です。感染症、特に風邪(咽頭感染)や皮膚感染が原因となることが多いとされています。これらの感染の1-2週間後にむくみや血尿、血圧が高くなる、呼吸が苦しいなどの症状で気付かれることがあります。急性糸球体腎炎の場合は、これらの症状が自然に改善することが多いことが知られていますが、重症な場合にはステロイドなどの免疫抑制剤が使用されることもあります。

当科のアプローチ

慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科では、様々な診療科と連携し、最新の知見に基づいたアプローチで、IgA腎症やその他の糸球体腎炎に関する包括的な診断と治療を提供しています。