エピゲノム調整と慢性腎臓病についての研究

我が国においては加速する高齢化社会を背景として、高血圧、糖尿病などの生活習慣病と、更にそれらに随伴する慢性腎臓病の増加は社会問題となっております。近年、慢性腎臓病は命に関わる心血管合併症の大きなリスクになることが明らかになってきました。さらに最近では、慢性腎臓病は、他の臓器の加齢を加速させることも明らかとなり、(Nat Med 2023)。全身の加齢をできる限り防ぐためにも、腎臓病の進行をくいとめることは非常に重要です。しかしながら、慢性腎臓病に対する根本的な治療方法は未だ開発されておらず、新規の治療法開発は喫緊の課題です。
我々はこれらの疾患の病態において重要な役割を果たしているレニンアンジオテンシン系とその抑制薬による持続的効果(メモリー効果)について検討して参りました(Hypertension 2009, Kidney Int 2010, J Atheroscler Thromb 2012, Hypertension 2014)。
更にその機序の一つとして最近はエピゲノム調節の関与について検討しております(J Clin Invest 2014, Kidney Int 2015)。エピゲノム変化は、後天的に環境要因に依存して起こる、遺伝子発現を変え得る変化であることから、私達は生活習慣病におけるエピゲノム変化の重要性に注目しています。更に最近、エピゲノム変化形成プロセスにDNA損傷修復機構が関与していることに注目し検討を行い、腎臓のDNA損傷とそれに関連して生じるエピゲノム変化が、慢性腎臓病の病態に関与することを明らかにしてきました。(Cell Rep 2019, Sci Rep 2020, iScience2022, Cell Rep2023)。さらに、腎臓のDNA損傷が、免疫老化、さらには全身の加齢の進行とも関係がある可能性に着目し、検討を進めております(Cell Rep2023)。
腎臓のDNA損傷をターゲットとした治療は、慢性腎臓病の治療のみならず、全身の老化を食い止める新しい治療方法につながる可能性があります。
新しい腎臓病治療開発をしたいという先生方、一緒に臨床に還元できる研究を行いましょう。

ワクチン研究

高血圧や慢性腎臓病といった生活習慣病は、心血管イベントを引き起こし、死亡や日常生活活動動作の低下の原因となります。現在の低分子化合物を主体とした治療法では、これらの疾患を十分に制御することはできていません。一方で、医薬品開発の分野では、低分子薬による創薬手法が限界に達しつつあり、抗体医薬などの次世代医薬へのパラダイムシフトが起こっています。

生活習慣病は自覚症状に乏しく、長期間にわたる治療継続が必要となるため、医療経済的負担や不良な服薬アドヒアランスの原因となります。そこで、我々の研究室では、少ない投薬回数で長期にわたる治療効果が得られる治療方法の開発が必要と考え、新たな治療戦略として「ワクチン」に着目しています。ワクチンはその性質から、数回の接種により、体内で目的分子に対する抗体を誘導・維持することが可能であり、その結果、長期間の治療効果が期待できます。

当研究室では、現在までに、高血圧、糖尿病、肥満、慢性腎臓病など(Hypertens Res 2012, Mol Immunol 2018, Diabetes 2021, Sci Rep 2022など)多岐にわたる疾患を予防・治療できるようなワクチンの開発に取り組んで参りました。

臨床応用への道は容易ではありませんが、皆様と共に進めることを願っています。

2019年3月17日に日本経済新聞朝刊で紹介されました。

臨床研究

当科には、臨床研究を通じて新たな知見を発見し、医療の進歩に貢献する責務がございます。前向き介入研究を積極的に行っており、特に腎臓リハビリテーションの分野における研究を得意としております。運動指導が腹膜透析患者の運動耐容性向上に役立つことを示したこと(Sci Rep 2019)や、ステージの進行した慢性腎臓病(CKD)患者さんにおける運動の有用性に関する報告(J Cachexia Sarcopenia Muscle 2021, Kidney Int Rep 2022)は、ガイドラインに引用されるなど、国際的にも高い評価を受けています。また最近では、関連施設とのネットワークを活かした多施設共同研究も積極的に行い、実臨床に影響を与えるようなエビデンスの構築・発信に取り組んでおります。

教育体制も充実しており、若手医局員を筆頭著者とした論文を、2021年は4件、2022年11件、2023年は7件発表しております。臨床研究論文を書く経験は、文献の検索力や論文の解釈力を身につけることで、診療レベルを飛躍的に向上させる貴重な機会です。研究に興味がある方はもちろんのこと、臨床に全力を注ぎたいと方々にも、ぜひ取り組んで欲しいと考えます。

臨床医にしかできない「臨床研究」を皆様と一緒に探求していきましょう!

代表的論文の紹介

2021年に、6ヶ月間の運動指導プログラムによりCKDステージ4の患者さんの運動耐容能および生活の質が向上することを報告しました。